5.漏水プールによる被ばく者の死亡


(3)許容線量は安全か

 もう一つのケースとして考えられるのは、法律に定めた許容線量が、労働者にとって
は厳しい線量であることも考えておく必要がある。

 仮に、喜友名さんの働いた現場での被ばく線量が正確であるとすれば、その中で働い
て死傷者が出るようであれば、現在の許容線量が労働者にとって厳しい線量であること
を示していると言っても過言ではない。

 日本における原子力産業は、ウラン採掘から始まり、原子力発電所と再処理工場の運
転、保守管理等における過酷な被曝労働を必要としてきた。逆に言えば、原子力産業が
多数の被ばく労働者を必要とし、彼らの犠牲の上に成り立っているのである。日本の原
子力発電所で被ばく労働に従事した労働者は30万人規模に達するが、その労災補償は
申請・認定数および疾病の種類は極めて少なく、被害は放置されている。

 厚生労働省は「被ばく限度を超えない程度の被ばく線量では健康への深刻な影響はな
い。」として、離職後の健康管理とそのための健康管理手帳の交付の必要性を認めよう
とせず、また、被ばく労働者の救済に役立てるために必要な労災申請と認定の結果に関
する基礎資料の開示も拒否してきた。

 表2はこれまでに確認されている原発・核燃料施設労働者の防災補償申請・認定の状
況で、JCO臨界事故による急性障害3件も含めて、申請18件、認定9件である。こ
れを見ると明らかなのは、JCOでの急性被ばく障害を除けば、法令上の許容線量を超
えていないことが明らかである。ところが、それなのに、死傷者が出ているのである。

 ちなみに、労働災害の認定基準は、1年間に5mSvを超えて被ばくして、それが数
年続いている中で白血病で死傷者になった場合に限られてきた。つまり法令の基準の1
年間に20mSvまで被ばくしても、白血病で死傷者にならないと労災認定がされない
ということになる。

 では、現在の法令の基準はどのように整備されてきたかを、次の資料を見ながら考え
ていく必要がある。

 財団法人 日本原子力文化振興財団が出版した「原子力の基礎講座 第6分冊」は、
人体と放射線・原子力と環境について書かれている。そのp50に第15表 ICRP
勧告の線量制限の推移が紹介されているが、昭和33年、昭和40年、昭和52年、平
成2年と、年を追うごとに、線量限度が低くなっている。

 ちなみに、ICRPとは、INTERNATIONAL COMMISSION O
NRADIOLOGICAL PROTECTION、国際放射線防護委員会であり、
放射線防護に関して推薦と指導をする諮問機関である。

 ICRPで採択された基準を各国が採用しているが、ICRPの勧告が出た年代と、
線量限度、そして、「実用発電用原子炉の設置、運転等に関する規制の規定に基づく線
量限度等に定める告知」に採用した年月日を併記したものが次の表である。

 刊行書の発刊年   線量限度(最大許容線量)  告知への採用年月日
 昭和33年  3レム/13週  昭和35年9月30日
 昭和40年  3レム/4半年  昭和53年12月28日
 昭和52年  50mSv/年
 平成元年3月27日
 平成 2年  5年間の平均が20mSv/年   平成13年3月21日
 (1年に50mSvを超えないこと)

 日本がICRPの勧告を採用するのに10年以上も掛けているのは、新しい基準の方
が、労働者を多く採用しなければならないからである。つまり被ばく許容基準が下がれ
ば下がる分、被ばく労働者を大量に確保しなければならない。それをによって、利潤が
下がるので、電力会社としてはなるべく許容線量の低い基準の採用を遅らせたがる傾向
にあるのだ。

 もっとも、表2の日本の過去における労災認定者の被ばく量を見れば、ICRPの勧
告以下の線量でも死傷者が出ているのであるから、これをもって安全という基準ではな
い。むしろ、現在の線量制限の規制が高すぎるから、年間5mSv未満とするように改
善するべきである。
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 1.被ばく労働問題について
 2.東海再処理工場での被ばく事例
 3.六ヶ所再処理工場の被ばく事例
 4.なぜ「その他」に被ばく者が多いのか
 5.漏水プールによる被ばく者の死亡
  (1)六ヶ所再処理工場での労働者の被ばく死
  (2)横行する被ばく線量のごまかし
(3)許容線量は安全か
  (4)漏水プールの補修作業での被ばく
 6.被ばく線量の安全裕度とは
 7.青森県知事が被ばく労働を進めるわけ
 8.被ばく労働をなくすため、原子力産業と決別せよ


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